少年。
病的なほど青白い少年は、そっと机に手を置いた。
机上に散らばる写真。デジカメで撮った写真。携帯で撮った小さな物も数枚紛れている。
フッと口元に笑みをのぼらせる。
「いつまでたっても」
憎々しげな表情で、写真の少女へ視線を送る。
大迫美鶴。
制服を纏った、ごく日常的な一枚。灰色を基調としたウォッチマン・プレイド柄の、愛らしいワンピース。幅の広い水色のリボンが胸元で揺れている。
駅舎で、同じく唐渓の制服を着た、長身で端厳な少年との一枚。
長身ではあるが、もっと瑰麗な少年との一枚。
どれもこれも、特に意味があるとは思えない。スナップ的な写真の数々。
かと思えば、全身煤汚れのまま、呆然と立ち尽くす一枚。
すべての写真に美鶴がいる。
その中の一枚を摘み、ピンッと弾く。
「いつまでたってもっ」
呟きながら、やがて胸に湧くのは怒り。憤りでもあり、憎しみでもある。
「いつまでたってもっ!」
素早く右手を振り上げた。
「いつまでたってもっ!」
バンッ!
「ムカつくだよっ!」
その細い身体の、どこからそのような怒声が出てくるのだろう。
だが机上を叩くその腕は、細く白くとも、なんとなく男だ。昔の名残も、そこはかとなく存在する。
瞳を閉じ、呼吸を整え、やがてぐったりと頭をさげる。
そうして次に見開いた時、その瞳に宿る光は、冷たくて鋭い。
「俺も甘く見られたものだな」
下卑ている。
「いつまで俺を、無視するつもりだ?」
そうだ。俺はいつも無視された。
俺の気持ちなど、誰も汲み取ってはくれなかった。
誰もわかってはくれなかった。
「お前一人の力じゃないぞ」
嗜めるような声が耳底を叩く。
フンッと鼻で笑う。
ならば、俺の手には何がある?
無造作に写真を握り締め、振り上げて、ぶちまける。
俺は、俺のモノが欲しい。
俺だけのモノが欲しい。
「いいさ」
ペロリと唇を舐め、暗闇の中で笑う。
そう、この部屋は薄暗い。
窓などなく、細く開けられた入り口からの明かりと、机上に置かれた卓上ライト。部屋の隅の水槽の明かり。パソコンの画面。
右下のデジタル時計が、もうすぐの夜明けを教えてくれる。
もうすぐ、今日が始まる。
残暑の蒸し暑さが漂う中で、明かりはなぜだか寒々しい。その薄明かりの中で、顔が笑った。
「お前がそれを望むなら、逢わせてやろう」
逢いたいんだろう?
目の前にはいない、少女に笑う。
「逢わせてやるよ」
まさか、このまま何もないと思っているワケでは、ないんだろう?
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